京極夏彦さん「妖怪」を語る

2010.10.02.sat/メイプルホール

京極夏彦さん「妖怪」を語る

箕面で、人と本を結ぶ活動を行ってきた「人と本を紡ぐ会」が、設立から10周年を迎え、人気作家の京極夏彦さんを招いて記念講演会を開催しました。
京極夏彦さんは、1994年に「姑獲鳥の夏」でデビューし、以降次々とヒット作を世に送り出してきた作家で、緻密な構成、非常な博識、息もつかせぬ展開のミステリー作品にはファンも多く、比較的若い年齢でありながら、すでに大作家としての地位を不動のものにしています。
 10/2(土)、午後2時から行われた講演会、会場のメイプルホールは満席。詰めかけた京極ファンが見守る中、白い着流しに黒い羽織の着物姿、白髪交じりでウェーブのかかった髪、メガネをかけ、手にはトレードマークの黒手袋をはめた京極夏彦さんが登場すると、いっせいに拍手がわきおこりました。
今回の講演、テーマはずばり「妖怪」。これまで、妖怪をモチーフにした作品を書き続け、作品名にも妖怪の名前が入ったものが多く、京極夏彦と言えば妖怪、すぐにそんな連想ができるほど、京極さんと妖怪とは切っても切り離せない間柄と言えるでしょう。その京極さんが、あろうことか、この講演会でこんな事を話しました。
「妖怪なんてものはいない」
遠野物語などで有名な「座敷わらし」を例に挙げ、説明する京極さん。おかっぱ頭で着物姿の子ども、座敷わらしが住み着いた家は栄えるが、座敷わらしが出て行くとその家は没落する…と言われています。「これは恐らく、理由を後づけしているのでしょう」と言う京極さん。家が没落したことを、座敷わらしが出て行ったことにしているのであって、家が栄えている間は、座敷わらしとは関連付けて考えられることはない、と考察していました。
 京極さんは、そう言いながらも「妖怪推進」の会でさかんに活動を行っています。あるとき「妖怪推進」という言葉はおかしい、「妖怪研究」が正しいのではないかという指摘を受けましたが、京極さんに言わせれば「妖怪とは、研究できないもの」なのだそうです。古い民家に例えると、柱や畳の一つ一つを詳しく研究することは可能ですが、あくまでそれは「柱研究」「たたみ研究」であって、その家の住み心地を研究することにはならない。妖怪とは、言わば「ドーナツの穴」のようなもので、その核心は空洞であり、妖怪を研究するということは妖怪を退治するようなものだ、そんな説を展開する京極さんでした。
「妖怪は楽しむものなんです。みなさんも、ぜひ妖怪を楽しんでください」と呼びかける京極さん。そんな京極さんは、漫画家の水木しげるさんをとても尊敬しているということです。そもそも存在しない、形さえあやふやな妖怪というものを、大変な努力で「絵」にして、誰にでも妖怪がわかるようにした、その功績は計り知れないと言う京極さん。
「妖怪って、もうからないんですよね。霊感商法というのはあるが、妖怪商法というのはない。妖怪でもうけているのは、水木しげるさん一人ですよ。僕なんか、彼の漫画やDVD、フィギュア、出るたびに購入するから金がかかってかかって」という重度の水木マニアぶりを自虐的に語って、会場の笑いを誘っていました。
おだやかで落ち着いた語り口調で、独特の視点から「妖怪」を語った京極夏彦さん。ユーモアもたっぷりで、会場からは幾度も笑い声が上がりました。1時間半に及ぶ講演はあっという間に過ぎ、最後に人と本を紡ぐ会から花束が贈られ、盛大な拍手の中で講演会は幕となりました。
 訪れた観客の中には、東京や大分からわざわざ講演を聴きに来たという方もいて、京極さんの人気をうかがわせました。

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